2014年6月16日月曜日

マンボウ

マンボウ(翻車魚)は、その不思議な形態と生態によって広く知られていますが、 詳しい生態はまだはっきりと分かっていません。

  • たくさんの卵を産む!(3億個くらい)
  • フグに近い魚(フグ亜目マンボウ科)。赤ちゃんはかなりフグに近い
  • 海面に浮かぶことがある(昼寝をしている?)。 調子の悪いときも、こうなるとか
  • 成魚は、クラゲなどを食べていると言われている……けど、実はよく わからない
  • かなり広い範囲に、分布しているらしい
  • 英語では、(Ocean) Sunfish,ラテン語では Mola Mola という
    (Mola は、英語の millstone (引き臼)にあたる言葉)
  • 普通は 1 km/h、逃げるときは、7 km/h で泳いだという記録あり (7.2km/h は 2.0m/s に相当するので、50mプールを25秒で泳ぐことになる。競泳の選手なみ)
  • (今は違うのかもしれないけど)飼育がとても難しいらしい
  • 水槽の壁によくぶつかるので、池袋サンシャイン水族館のように、 水槽の内側に透明なシートを巡らして、保護をしてあげる必要がある。 短命だった原因の一つが、外傷による衰弱なのだとか
  • 脳の重さが、体の0.03%くらいで、普通の魚(0.4-0.5%)に比べてかなり 軽い。ということは…(^ ^;)
  • 昔は、体組織の比重が軽いため、海面に近いところにいるとされていたのだが、 マンボウの卵がマグロなどのお腹から出てきたことなどから、少なくとも幼魚の ときは、やや深いところにいるのでは、とされている。
    (マグロ、キハダ、メバチは、水深300〜500m のところにいることもある)
  • 「どくとるまんぼう…」などにもあるのだが、食べられる。
    そこには『カニとエビの混ざったような味』とあるが、東北地方でとれ るものは、味が淡白。でも漁師さんたちには喜ばれている。
    研究室の小谷先生も食べたことがあるそうですが、『イカのような白子の
    ような味』だったのだとか。

参考文献は、一般に手に入るものがほとんどないといった状況です。

マンボウ・サーベイ

(昔研究室時代に調べたマンボウについて、最近需要があるみたいなのでw
 再掲します)

入手することのできた文献

(日動水雑誌→日本動物園水族館雑誌)

飼育、食物について

[ 1] 荒川好満,益田信之.マンボウの生態, 日動水雑誌,Vol.3.No.4,p95-97, 1961.
[ 2] 奥野良之介.マンボウの飼育例,日動水雑誌,Vol.7. No.4, P88-89, 1965.
[ 3] 西村芳愽・他.マンボウの飼育,東急油壷マリンパーク水族館年報,Vol.3, P66-69, 1971.
[ 4] 荒賀忠一,田名瀬英朋,森山惣一,太田満,樫山嘉郎.マンボウの飼育例とその生態の考察,日動水雑誌,Vol.15.No.2,p27-32, 1973.
[ 5] 辰喜洸,御前洋,宮脇逸朗.マンボウの飼育について,日動水雑誌,Vol.15.No.2,p33-36, 1973.
[ 6] 末広恭雄,堤俊夫.マンボウの飼育について.東急油壷マリンパーク水族館年報,Vol.5,6. pp.12-15,1972,1973.

その他

[11] 末広恭雄.マンボウの眼瞼について.東急油壷マリンパーク水族館年報,Vol.3, p.56,1971.
[12] 堤俊夫.マンボウ,フィッシュ・マガジン,Vol.8, No.3, pp.133-135,1972.
[13] 礒貝高弘.ヤリマンボウ Masturus lanceolatus の幼魚について,東急油壷マリンパーク水族館年報,Vol.?,pp.17-19,1976?.
[14] 山下欣二.マンボウの名称に関する歴史的考察,日動水雑誌,Vol.34.No.4,p80-83, 1993.
[15] 末広恭雄.魚の漢字と発音に就いて.東急油壷マリンパーク水族館年報,Vol.1, p.12,1968.

手に入らなかったもの

飼育、食物について

[ 7] 時岡隆.マンボウの食物,京大水族館月報,No.7, 1953.
[ 8] 谷津直秀.マンボウの食物,動雑26 (304),p91,1914.(記述は極めて短い.)
[ 9] 御前洋.マンボウの餌付け,マリンパビリオン,No.5, 1972.
[10] 御前洋.宮脇逸朗.飼育マンボウの死因について,日動水雑誌,No.6, Vol.14, 1972.

その他

[16] 小松崎三枝.まんぼう,理学界 Vol.3, No.8, 1905.
[17] 末広恭雄.改訂魚類学, 1961.
[18] Gregory, W. K. & H. C. Raven. Notes on the anatomy and relationships of the ocean sunfish(Mola mola), Copeia, 1943(1934?) (4) 145-151.
[19] Fraser-Brunner. The ocean sunfish (Family Molidae) Bull. Brit. Mus(Nat.Hist),Zool,1(16)89-121, 1951.
[20] Y, Suyehiro. A study on the digestive system and feeding fabits of fish. 日本動物学輯報, 1942.
[21] 矢部 博.ヤリマンボウの幼魚,日水会誌,16(2), pp.40--42, 1950.

飼育記録(1972 年頃まで)

文献全長、体重生存日数胃中に残っていたもの年月
[ 1]全長85cm21日イカ トビウオ未消化のイカ1960 年
[ 3]




全長95cm, 33 Kg
全長92cm, 33 Kg
全長91cm, 32 Kg
全長93cm, 34 Kg
全長92cm, 56 Kg
全長84cm, 30 Kg
全長110cm,25 Kg
5日
13日
14日
19日
22日
24日
37日
イカ クラゲ
イカ クラゲ
イカ クラゲ
アジ イワシ
アジ イワシ
イカ クラゲ
アサリのむきみ
イカ クラゲ
イカ クラゲ
イカ クラゲ
アジ、イワシの小骨
アジ、イワシの小骨
イカ クラゲ
アサリのむきみ



1970 年

[ 4]全長72cm, 22 Kg47日赤身魚肉(アジ、サバなど) 53% 白身魚肉 9.3%
ケマンガイ、アサリ 33.3% イカ、イセエビ 4.4%
---1972 年
[ 5]全長 49.6cm (幼魚)37日ヤドカリの腹部 アサリ アジの切身、ミンチ むきエビ 大正エビアサリ 7 個(胃2, 腸5)1972 年

※文献[ 6] に、

 ・ 鴨川シーワールド  79 日
 ・ 高知県桂浜水族館  121 日

という記録があります(1974 年)。この頃から、飼育期間がのびたのでしょうか。

自然での食性記録

文献全長、体重生存日数胃中に残っていたもの年月
[1]全長 2.7m
全長 1.25m
3日
2日
イワシ、イカ
アマモ、アオサ
1960 年
[2]全長 115cm 約 84 Kg4日イカナゴ 200g1965 年

[3]
全長 40cm (複数尾)
全長 80--100cm (複数尾)
全長 2m (複数尾)
全長 2m
2日以下
2日以下
(捕獲)
(捕獲)
未消化のエビの一種
カタクチイワシ、カニの一種
多量のクラゲ、など
クラゲ、ハダカイワシの一種、イカの一種
1970 年
1970 年
1968 年
1968 年
[4]全長 85cm, 30 Kg4日メヒカリイカ(軟甲)1972 年

 マンボウの食性は、まだよくわかっていないようです。昔からクラゲが主食
であると言われてきましたが、主食にするにはちょっと栄養不足ではないか、
ということだそうです。また、成長するに従って食性が変わるであろうことも
予想されます。
 食性については、多くの文献で考察が行われていますが、ここでは文献 [ 6]
の考察を紹介します。(このページの記述は、あまり正確ではありません)

 1.マンボウの顎骨は、発達が悪い。しかも体態は速い流れに適さない
                 ↓
 2.マンボウは、イワシ程度の魚でも捕まえられないと推定される
                 ↓
 3.プランクトン、クラゲ、イカなどが天然餌料と思われる

裏付けとして、

 4.クラゲ切断に役立つと思われる特殊な咽頭歯をもっている
                 ↓
 5.さらに、長い腸は、肉食性ではないことを暗示している
                 ↓
 6.クラゲを食することは、十分考慮してよいようだ

ということで、クラゲを食べているのでは、ということだそうです。

 クラゲを食することについては、疑問視されているのですが、
少なくとも、

 ・ 骨の多いものは食べられない

ことは確かなようです。

マンボウという名前について

 マンボウという名前については、文献 [14] に詳しい説明があります。この
文献は、日本の古文に登場するマンボウ(とその別名)を調べたものです。

 この論文で参照された文献は約 40 で、江戸時代が中心です。年代で言うと、
1469--1889 A.C. の間、だそうです。

 ここでは、簡単に要約をご紹介します。

マンボウの別名

マンボウの他に、次のような呼び名があるそうです。  ・ ウキキ  ・ オキナ  ・ マンザイラク  ・ オキマンザイ  ・ ナンボウザメ  ・ シオリカ  ・ シキリ  ・ キナボ  ・ マンホウ  ・ ウキキサメ ウキキ、マンボウがメジャーな呼び名のようです。

それぞれの名前の解説

※ 漢字には、古文書に読みが与えられていなかったものも、含めてあります   漢字と読みとの対応は、完全なものとは考えないほうがよい場合もありま   す。詳しくは、[14] をご覧ください。
 ウキキ   東北地方に、昔からある名前。「浮き木」が語源で、流木のように水面に  浮いている様子をさしているとか。   「浮亀」と漢字で書かれているばあいは、亀の一種と考えられている場合  が多いのだそうです。漢字として最も多い「木査 魚/二文字」の 木査 は、  イカダの意だそうです(→ユキナメ)。  漢字:浮亀、浮木、木査 魚(/二文字)、宇岐岐、浮気、翻車魚、査魚、烏紀紀、     魚巨 魚差(/二文字)
 ウキキサメ   前出のウキキを、サメの一種と考えていたため、この名があるようです。  マンボウも、皮がざらざらしているそうです。  漢字:ウキキに、サメとして、鮫、鯊の字を当てる
 オキナ(ヲキナ)   雪魚(→ウキナメ)の別称(かなり曖昧)。オキナは、北海の大魚で、鯨類の  ことを指す場合が多いようです。  漢字:雪魚
 オキマンザイ   万歳楽(→マンザイラク)から派生した名前。  漢字:沖万歳
 キナボ   北海道でキナンボ、青森では、キナッポー、キノッポー。現在でもそう呼  ばれているようです。ウキキと同じく、「木の棒」の転訛だとか。  漢字:岐奈房
 シオリカ   昔、石川、新潟の方でそう呼ばれていたということです。現在はクイザメ  という名前しかないそうです。ちなみに、クイザメは、「杭鮫」でして、  ……ウキキとおんなじですね。(^^;  漢字:志於里加
 シキリ   「尻切れ」の意で、生まれた言葉。鹿児島の方では、現在でもシキリ、シ  チャー(喜界島)と呼ばれているそうです。  漢字:止吉利
 ナンボウザメ   「雪のふるみち」津村淙庵(天明八年)に出てくる名前。マンボウとキナボ  を混同して呼んだもの。  漢字:???
 マンザイラク   マンボウが暴れたときに、     * マンザイラク     -------------------------------------------      * repeat twice  と唱えると静かになるところからこの名が付いたのだとか(マジ?(^^;)。  万歳楽は、「くわばら」などと同じ、厄よけの語。   オキマンザイと共に、相模、佐渡、安芸に見られる名前。ここからマンボ  ウが転訛した可能性もあるそうです。  漢字:万歳楽
 マンホウ、マンボウ   西日本では、昔から広く通用していた名前だそうです。江戸の頃には、ウ  キキと共に、マンボウの標準的な名前になったようです。   語源には、二つの説があるようです(まだあるかもしれません)。   1.体が丸いから、「満方」。     マンボウの「マン」は円いのマン、ボウは魚の意から、という説も   2.子どもの持っているハスの葉の袋(萬宝)に形が似ているところから  漢字:満方(マンホウ)、翻車、翻車魚、満方魚、斑車魚、満肪など
 ユキナメ   マンボウに雪魚をあてる文献が多い。ユキナメは、新潟の地方名から、  [14] の筆者が与えた名前。他にユキイカダ(雪筏)などの呼び名もあるが、  これは例によって、ウキキに通じる。オキナの項もご覧ください。  漢字:雪魚

中国語とマンボウ

翻車魚、斑車魚、牛魚(ギュウギョ)、魚巨 魚差(/二文字)などの漢字は、 中国の文献にある魚の名前のどれにマンボウがあたるか、当てはめたものなの だそうです。  現在中国ではマンボウを翻車魚と書き、Fan-che-yu と呼ぶのだそうです。